検索
  • Kazuaki Hakamada

ポストSmartFactory

更新日:7月22日

はじめに

 

SmartFactoryは、ドイツが提唱しているインダストリ4.0*1。において、工場内のさまざまな機器をネットワークによって統合するものである。

一方で、AM(Additive Manufacturing)*2の進歩によって、D’Aveniが提唱するPan-Industrial Revolution*3が現実のものとなってきている。


Richard D’AveniのPan-Industrial Revolutionの事例として、GEの事例がある*4。この事例はGEのインドのプネーにある工場で、パワータービンの需要が減った場合、いくつかのタービンラインをジェットエンジンの部品の製造に使用するというものである。このようにAMはひとつの工場でまったく別のものを製造することを可能にする。


ここでは、Richard D’Aveniが提唱しているPan-Industrial Revolutionとの準拠性の議論を避けるため、Pan Industrial Manufacturing/Remanufacturing(以降PIM/Rと表記する。汎産業製造、万能工場ともいう)として述べていく。


PIM/R(Pan Industrial Manufacturing/Remanufacturing)とは

 

PIM/Rとは、AMによる工場の改革を目指したものであるが、SmartFactoryがネットワークによって工場内の機器を統合するだけであったのに対して、工場自体をAMとみなし(AMは一つである必要はなく、複数のAMが複合したものでもよい)、産業全体に革新を起こすもので、ポストSmartFactoryの姿を啓示しているので、詳述していきたい。




AMの代表的な事例である3Dプリンタで製造できるものには、住宅*5、EV*6、錠剤*7、代替サーモン*8などと適用事例はこと欠かない。


これらの事例が示しているのは、AMは分子レベルから「物」をつくることを可能にしたということである(技術的に3Dプリンタはすべての元素に対応している)。つまり、すべての化合物をつくることができるということを意味している。もはや複数の拠点に分散されている工場で部品を製造して、輸送して、組み立てるというサプライチェーンは不要になり、部品を製造するための元素を調達すれば、一つの拠点で製造可能になる。


PIM/Rでは、ひとつのエコシステムで複数種の生産が可能になり、製造業は集約化される世界を想定している。つまり、従来の製造業は食品製造、機械製造、金属加工、金属製造、衣類製造など多くの分野に分業されていたが、PIM/Rでは文字通り「汎」産業製造として集約される。そして、少量多品種生産でありながら、規模の経済が効いてくる新しい経済圏が生まれる。


また、3Dプリンタは製造プロセス自体も変革する。たとえば、自動車の製造工程において、溶接点数を減らし、プレスや塗装といったプロセスを省略できるようになる。このことは単に生産日数を短縮するだけでなく、製造時に発生するGHG(温室効果ガス)の削減にも寄与する。


Pan Industrial Manufacturing/Remanufacturing時代のスマートシティ

 

DX(デジタル・トランスフォーメーション) が企業の変革、つまりEX(エンタープライズ・トランスフォーメーション)であるとすると、企業の変革のつぎに、産業の変革、つまりIX(インダストリアル・トランスフォーメーション)に向かい、この連鎖のさきに、SX(社会の変容)、LX(個人の生き方の変容)がやってくる。このような社会をスマートシティと呼ぶ。


Peter H. Diamandisの「2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ」によると、未来を創るエクスポネンシャル・テクノロジーは以下であるとしている。

①量子コンピュータ
②AI
③ネットワーク
④ロボティクス
⑤ARVR3Dプリンティング
⑦ブロックチェーン
⑧材料科学
⑨バイオテクノロジー

これらをスマートシティにマッピングすると以下のような未来社会になると考えている。



3Dプリンタをコアテクノロジとしたエクスポネンシャル・テクノロジーで実現されるPIMを第一次産業と第二次産業を包含した生産、製造経済圏と捉えると、その外側に企業と消費者で形成される消費経済圏、そして公共施設、公共交通、電力・ガス、ネットワークなどの社会インフラストラクチャがある。


一方で、多用途UGV(無人地上車両)による工場内物流の無人化*9。が進み、PIM/Rで製造されたものが企業や消費者に自動配送されるようになる。さらには、企業や消費者に原材料だけを配送し、手元にある3Dプリンタで生成されるようになるであろう。


もちろん、社会インフラストラクチャにもPIM/Rは波及し、鉄道、道路、物理的なネットワークなどをAMが動的に生成、修繕していく社会は容易に想像できる。



ゼロエミッションのためのサーキュラエコノミー(循環経済)

 

持続可能な社会を目指すために、GHG削減を達成するだけでなく、ゼロエミッション(排出ゼロ)によるサーキュラエコノミーが必要である。排出された廃棄物、副産物、排熱、排ガスなどのゼロエミッション化、つまり、廃棄物などを元素に分解し原材料として再利用する必要がある。

AMはすべての元素に対応しているため、分解技術が成熟すれば、ここでもAMは有効である。たとえば、生分解性材料(生物の働きにより自然環境中で分子レベルまで分解され最終的には二酸化炭素と水になる性質の材料)で作られた部品の開発が進められている。


まとめ

 

前出の「2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ」では、「アメリカのGDPの80%がサービスエコノミー」と述べられている。このことは、物の消費から事(経験、サービス)の消費に移行していることをあらわしている。つまり、「物」を取り扱う商社、流通業などは、 CX(カスタマー・エクスペリアンス)を提供する業態への変革を求められ、たとえば、CXを期待されないであろう定番商品の購入はAIによる自動補充になり、一方で、オーダーメイドに対しては、Haptics(触覚)など五感に対応したメタバースによって訴求していくことになるであろう。消費者が注文した商品はデジタルツインなどによって、AMで製造されている仕掛状況が確認できるということが期待される。


AMはすべての化合物をつくることを可能とした。元素を調達すれば、すべてものがつくれるので、サプライチェーンは、元素の調達と最終消費者への物流のみ、さらには、商品は自宅の3Dプリンタで生成される時代がやってくる。


PIM/Rを実現するためには、ここでは詳述しないが、分子から化合物を生成するMI(マテリアルズ・インフォマティクス)という技術が重要になってくる。そして、分子の組合せはあまりに多く、組合せの爆発が生じるため、従来のノイマン型コンピュータでは処理しきれないため、FTQC型の量子コンピュータの実用化が待たれる。


また、ソーシャル・トランスフォーメーション(社会の変革)に向けて欠くことのできないのは、サスティナブル・トランスフォーメーションであり、地球規模のweather(一時的な気象状態)だけでなく、climate(比較的長期的な気象状態、つまり気候) への影響を考慮したGHG削減を考慮しなければならない。考慮すべき範囲は、製造にかかわる電力供給に関わるGHGから、社会インフラの維持に関わるGHGまで、多岐にわたる。この局面においても、量子コンピュータの実用化が待たれる。


参考文献

 

※以下外部サイトとなります。

*1:https://ec.europa.eu/futurium/en/system/files/ged/a2-schweichhart-reference_architectural_model_industrie_4.0_rami_4.0.pdf なお、 SmartFactoryの仮名表記は商標登録されているため、ここではアルファベット表記にする。

*2:AM(Additive Manufacturing)は、3Dプリンティング技術による積層造形技術による製造方式のことで、2020年にJIS規格B9441「付加製造(AM)―用語および基本概念」として規格化されている。その定義によると、付加製造(AM) とは、「3Dモデルデータを基に、材料を結合して造形物を実体化する加工法」と定義されている。 https://www.kikakurui.com/b9/B9441-2020-01.html

*3:https://industrytoday.com/additive-will-power-the-industry-of-tomorrow/

*4:Richard D’Aveni著 ”The Pan-Industrial Revolution: How New Manufacturing Titans Will Transform the World”(Houghton Mifflin Harcourt,2018年)

*5:住宅 ITmediaビジネスONLINE 「3Dプリンターで作った家が完成」 https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2203/10/news046.html

*6:EV cobby「3Dプリンターの電気自動車が登場!製造は3日で約111万円で販売」 https://cobby.jp/3dprinter-ev.html

*7:錠剤 Innovation Origins「Start-up Doser prints the perfect pill」 https://innovationorigins.com/en/start-up-doser-prints-the-perfect-pill/

*8:代替サーモン Foovo「イスラエルのPlantishが3Dプリントされた植物性サーモンを発表、2024年に本格販売へ」 https://foodtech-japan.com/2022/01/18/plantish/

*9:多用途UGV(無人地上車両)による工場内物流の無人化 MONOist「工場内物流の無人化に向け、多用途UGVによる無人物資輸送の実証実験に成功」 https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2204/22/news034.html

閲覧数:27回0件のコメント

最新記事

すべて表示